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KJK INFO
----2005年1月----
 ●「遠くの誰かが不健康に」
 
「健康住宅」は住み手の健康を主眼とする。しかし、自分の快適で健康的な住生活が他人や未来の世代を不健康にする可能性に気づく人は少ない。

今回は異常気象と劣化ウラン弾という違う切り口から、我々の生活と無関係に見える人の健康阻害を取りあげる。

2004年は台風の当たり年だった。発生数28、日本への上陸数10といずれを取っても記録的だ。海水温が上昇し本土に近づいても台風の勢力が衰えなかったらしい。23号によって引き起こされた洪水では、兵庫県だけでも2万棟を超える住宅が浸水した。突然、住宅が不健康な事態に見舞われた訳だ。大洪水のイベントレポートは東南アジアの国々からも入ってくる。多くの人が地球温暖化の進行を実感したに違いない。温暖化の主因である大気中の二酸化炭素濃度は、化石燃料の燃焼によって増加してきた。つまり、物質的豊かさの獲得が異常気象を引き起こしたと言える。

住まいで消費されるエネルギーは全体の2割弱に過ぎないが、消費者が自ら責任を負う分野だ。暖房、冷房、給湯、照明、動力など快適かつ便利で健康的な暮らしを支えるには、エネルギー消費の増大が伴う。人間にとってある目的に有益な行為の積み重ねが環境を狂わせ、まず一部の人々を不幸にし、ついには社会全体を狂わせる。

もうひとつの視点、イラク戦争の後遺症として問題視されている「劣化ウラン弾」について耳にされたことがあると思う。現地からの報道写真には眼をそむけたくなるような奇形や後遺症に苦しむ人々の姿が写されている。放射能が原因の健康障害であることに疑いの余地はないが、政治的な理由からか公式には認められていない。劣化ウランは、ウラン235の割合を高める「ウラン濃縮」のプロセスで残る放射性廃棄物である。濃縮ウランは原子力発電所の燃料や核兵器に使われる。ウラニウムは比重が19.07と非常に重く、「劣化ウラン弾」はこの性質を利用して戦車の分厚い鉄板をも射抜くために作られた弾丸のことである。
本来ならば適切に保管されなければならない劣化ウランを、戦争という特殊な条件の下、強力な弾丸として敵国でばら撒いた(廃棄処分した)のである。イラクの人々を健康障害で苦しめている劣化ウラン被害の直接の加害者はアメリカ軍だが、濃縮ウランを必要とする電力会社、そしてその電力を使う我々消費者も間接的な加害者ではないだろうか。「二酸化炭素を出さない」と言われる原発の電力を使って快適で健康的な住生活を楽しむことが、遠い国の人々の、また未来世代の健康を損ねかねない、という因果関係に我々は気づいているだろうか。

エネルギー大量消費の問題だけではない。防腐剤や防蟻剤はもとより、建物取り壊しや日常の生活ゴミから出た廃棄物の処分場は地域の環境を汚染する。内陸ならば飲料水と土壌の汚染、臨海部ならば魚場の喪失や生態系の破壊につながる。健康な生活に不可欠な安全な飲料水と食材、それらが得られる場所の汚染は重大なのだが、なかなか実感し難い。

一人一人の資源・エネルギー消費、有害物質使用の膨大な累積が、地域と地球の劣化につながっている。環境保全の視点を持たない「健康住宅」の追求は、利己的な問題解決に留まる。健康住宅は同時に「環境共生住宅」であることが必要だ。住み手・住まいの健康に加え地域と地球環境の健康(健全さ)という二者の調和が求められている。

(参考資料)
いま、イラクの子どもたちは
(月刊保団連増刊、2004.6、全国保険医団体連合会)

大阪ガス(株)エネルギー・文化研究所
濱 惠介