住まいの工夫

高齢者対応住宅の注意点(一般編)

 「長寿社会対応住宅設計指針」では住空間における共通事項として
a.住宅内の日常生活で移動が容易に行えること
b.将来の歩行補助具や、介護用車椅子による住宅内の移動にも容易に対応できること
に対する配慮することが必要となります。
9つの設計項目と対応の原則
  (1) 部屋の配置高齢者などの寝室・便所・洗濯所・浴室・脱衣室・食堂・玄関など、高齢者の日常生活を最低限確保するために必要な基本生活空間は同一階に配置する。
 基本的な生活空間は同一階に配置
  (2) 段差住宅内および住宅に付随する外部空間の床は段差なしとすること。歩行環境が変わる境界では段差なし、または単純段差とすること。高さの異なる床を結ぶ通路は、スロープまたは緩勾配の階段が望ましい。
 住宅内外で段差をなくす。スロープ化
  (3) 手すり重心の上下動、片足立ちなどによって不安定な姿勢をとる場所には、手すりを設置すること。また、手すりを設置できる構造にしておくこと。手すりは、使用しやすい形状、材質とすること。
 手摺を設置したり、設置できる構造
  (4) 通行幅住宅内の通路部分は、日常的な移動や荷物運搬時などの利便性だけでなく、歩行補助具や介助用車椅子が通行可能な幅員を確保すること。
 車椅子などが通行可能な幅員確保
  (5) 仕上げ床仕上げ材では、つまずかないように、平坦部に不陸(ふりく凸凹のある様子)が生じないこと。滑りにくい床材とすること。転倒しても、衝撃の少ない床材とすること。また、壁仕上げ材では、転倒しても衝撃の少ない壁材とすること。体をこすっても擦り傷になりにくい壁材とすること。
 不陸なく、滑りにくい床材、転倒の衝撃少ない材
  (6) 建具開閉しやすく、安全なものとすること。建具の把手や引手は、使いやすい形状のものとし、適切な高さに取り付けること。
 開閉しやすく、安全なもの、使いやすい形状と高さ
  (7) 設備使用方法や表示がわかりやすく、誤動作防止の機能をもった機器を設置すること。買う礼者の身体機能低下に合わせて、高齢者が快適さを享受できるように、十分な性能を備えた機器を設置すること。そして、メンテナンスや消耗品の交換が容易であること。
 誤動作防止機能、表示・メンテナンスへの配慮
  (8) 温熱環境基本生活空間には、暖房設備を設置すること。環境調節機能が高いこと。安全な構造のこと。機器の調節や維持管理を容易にすること。
 機器の調節や維持管理への配慮
  (9) 収納各空間には、動線上に物がはみ出っさないように、使いやすく十分な容量の収納を確保すること。取り出しやすく収納しやすいこと。収納の高さ、奥行き、建具の開閉方式に配慮すること。
 動線確保、使いやすい高さ・奥行き・開閉方式
出典:ユニバーサルデザイン研究会編 ユニバーサルデザイン 日本工業出版

 

高齢者対応住宅の注意点(詳細編)

階段の配慮項目
 身体的運動能力の低下により、階段の昇降は負担となります。また転落事故の多い危険箇所のため、手すりの設置や勾配の低減、照明の工夫などによる安全確保が必要です。
a. 踏み面240mm以上、けあげ180mm以下の緩やかな勾配とする。
 踏み面(T)とけあげ(R)の関係を、
  550mm≦T+2R≦650mm かつ 勾配≦6/7 とする。
 廻り階段は踊り場を設け、直接下まで転落することを予防する。
 踏み板はすべりにくいスリップレス仕上げとする。
 段鼻を視認しやすくするために色を変えるとよい。
b. 手すりの設置は必須で、なるべく切れ目をつくらずに連続とする。
 手すりの設置高さは踏み面から750〜800mmを目安にする。
 階段の有効幅は手すりの端面から750mm以上を確保する。
c. 足元の暗さを補うとともに、階段全体の視認性を上げるため、光源が直接目に入らないように照明を設置する。
 赤外線センサー付き足元灯などを利用すると、スイッチ操作をしないでよいので安全性が高まる。
d. ホームエレベーターは、安全で有効な住宅設備のひとつである。

浴室の配慮項目
 浴室内では、濡れによる滑りや転倒への対応だけでなく、介護が必要な際の対応にも配慮する必要があります。したがって十分なスペースの確保や、浴槽内での安全の確保、滑り防止、段差の解消などに留意することが重要です。
a. 原則として高齢者の寝室と同一階とし、
  介助を想定して1,820×1,820mm程度とする。
  床材は濡れても滑りにくい仕上げを採用する。
b. 出入り口は車椅子などの移動を想定し、段差を極力少なくする。
  開口幅は650mm以上確保し、開閉しやすい引き戸を用いる。
c. 浴槽はまたぎやすくするため350〜450mmの高さにし、腰掛入浴が可能なように縁を広くする。
  安定した姿勢が保てるように、浴槽長さを内法で1100mm程度とすることが望ましい。
  浴槽底面は立ち座り時の転倒防止のため、滑りにくい形状にする。
d. 手すりを用途に応じて設置する。
  ・ 浴槽をまたぐための縦手すり
  ・ 浴槽内での姿勢保持のためのL字型手すり
  ・ 洗い場での立ち座りのための手すり  など
e. 水栓金具は操作しやすい形状で、温度調節が安全に行えるものを利用する。
f. 室温の急激な変化による身体負担を軽減するため、換気・乾燥・暖房の可能な空調設備の設置が望ましい。

照明の配慮項目
 加齢に伴う視覚の劣化は、40代後半から急速に進みます。そのため視覚機能の低下に対応した照明計画を行う必要があります。
a. 水晶体などの黄濁化や視細胞の減少にともなう視力低下に対しては、照度をあげると視力は向上します。読書や手仕事などは若齢者の2倍程度、屋外などでは3倍程度の照度を確保する必要があります。
b. 水晶体などの濁りに起因する眩しさに対しては、眩しい光源が直接目に入らないような照明器具や照明手法を選ぶことが大切です。
c. 明るいところから急に暗いところに移ったときに、目が順応しないといった明暗順応力の低下に対しては、室内のそれぞれで照度の差が大きくならないようにしたり、室内から外部への出口での配慮が必要です。
  また夜間にトイレに行くときは、照明が明るすぎると覚醒刺激となるため、深夜の廊下やトイレは照明を調光できるようにして、明るすぎないようにする必要があります。
  廊下は1〜10lx、トイレは10〜20lx程度が適切な照度となります。