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光はものを見るために不可欠であり、適正な光環境の確保は安全で快適な日常生活を保障する上で欠かせない要件です。当部会では、ものの見え方や雰囲気を左右するなど狭義の光環境に焦点を絞って研究を進めています。 |
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1.1 光環境の計画要件 |
光環境は、「作業のための光環境」と「娯楽や休憩のための光環境」に大きく分けられます。住宅においては、多用な行為が時間軸を変えて行われることが多く、年齢層も様々なため、最適な光環境が設定できるよう柔軟性が求められます。 |
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1.2 光の供給源 |
光はその発生原理から、自然光(昼光)と人工光に大別できます。 |
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1.2.1 昼光光源 |
太陽が源となる昼光は、自然との一体感を感じさせる心理的効果が高いといえます。時刻や天候によって供給量に変化があるため室内導入の工夫が必要です。特に、都市部など住宅が過密狭小化している地域などは対策が必要といえます。 |
1.2.2 人工光源 |
人工光は電気エネルギーを利用したものが一般的で、住宅では蛍光ランプと白熱電球が主流です。量的変動もなく、周辺建物の影響とも無縁で器具の取り付け位置の自由度が高いため、光の配分や制御が容易に行えます。 |
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1.3 健康な光環境の構築に向けて |
本報告では、住宅の都市過密化の進行、高齢化の進行に伴う在宅時間の増加などの社会現象を背景に、健康に資する昼光利用と、省エネルギーを配慮した昼間の補助照明の配慮要件について、視覚心理・生理面から検討を行ってきました。未だ断片的ですが、望ましい光環境の要件やその実現方法・事例について次章以降詳述します。 |
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2.1 昼光利用 |
2.1.1 窓の必要性 |
窓や開口部を通じて入射する自然光は室内環境にとって重要な要素です。自然光の利点は、省エネ効果のほか、居住者に開放感・広さ感といった心理的効果があります。さらに最近の研究では人間本来のリズムに光による刺激が大きく関与していることが明らかになっており、昼光の十分な室内は健康的な空間であるといえます。 |
2.1.2 昼光とは |
昼光には直射日光と天空光があります。直射日光は方向性が強くて光量が大きいのが特徴です。室内に入射すると見やすさを損ねやすい性質を持っています。一方、天空光は拡散性が高く、比較的安定しています。 |
2.1.3 都市環境における問題と対策 |
都市部の住宅の多くは、敷地周辺の建物によって採光を制限される傍ら、プライバシー確保のため、外部からの視線をカットする工夫も必要です。これらの解決策として1.窓を工夫する、2.プランニングを工夫するなどが考えられます。 |
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2.2 採光と省エネルギー |
太陽光には、熱となる赤外線成分も含まれているため、積極的に利用する場合には熱の問題を考慮しなければなりません。 |
2.2.1 窓 |
古代では窓(開口部)の材料として天然石膏や雲母を使用しており、紀元3世紀のローマ邸宅で採光が重視され、板ガラスが使い始められました。その後、住環境の多様化や地球環境保護の意識の変化に伴い、透過性だけでなく、熱線吸収ガラスや高反射ガラスなど、高度な機能を持ったガラスが要求されてきています。 |
2.2.2 日射遮蔽装置 |
夏季の冷房負荷軽減には直達日射の遮蔽も有効な手段です。図で日射遮蔽の例を示します。 |
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3.1 見える環境と観る環境 |
光環境を「視環境」として捉える場合、1.見える(See)環境と2.観る(Look)環境に二別できます。昼間の視環境としては、1.の観点で問題となる部位は少なく、採光の不十分な奥まった部位や天候によって外光が不足する場合に2.の観点で「補助照明」の必要性が生じます。このように補助照明は夜間のみに限らず適切な計画が必要です。 |
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3.2 安全性の確保 |
視覚による安全性とは、日常的と非常時に備える必要があります。日常の安全を確保するには段差の視認性がもっとも重要で、これは光の方向性による適切な陰影を作ることが有効です。非常時の安全性とは、災害時に備えてバッテリー内蔵の非常用照明器具を出入り口や寝室に設けておくと良いでしょう。 |
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3.3 健康への配慮 |
3.3.1 サーカディアンリズム(概日リズムと光) |
人は脳の視床下部の視交差上核に体内時計を持っていることが分かってきました。 ところが、この体内時計は約25時間の周期となっており、睡眠覚醒の周期が約1時間ずつ遅れていくのです。この周期を整えるものの一つに光があります。アルツハイマー型の痴呆症も、体内時計の弱体化が原因という説もあり、研究は続けられています。 |
3.3.2 良質な睡眠と快適な目覚め |
健康な睡眠のリズムは、生体リズムに沿った生活を心がけた光の採り入れ方でコン トロールが可能です。日中は明るい光刺激を採り入れ、日没後は過度な光刺激を避けること。入眠前の30分程度はリラックスする照明で過ごすといった工夫で改善できます。また、快適な目覚めには、外の明るみが寝室に差し込むように、透光性のカーテンを用いて自然に目覚められる工夫をしましょう。 |
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3.4 照明の心理的効果の活用 |
演劇の舞台で照明が縦横無尽に駆使されているように、照明の視覚心理効果は高いことがわかります。住宅においても、それぞれに相応しい照明関係を演出したいものです。 |
3.4.1 照度と色温度の生理・心理的効果 |
人は生理的・心理的に、明るいと活動的になり、暗いと休息的になります。しかし、現在の住宅で使用されている蛍光灯の光色の主流は、色温度5000K の昼白色で、真昼の太陽のような白い光です。この明るい光が夜のインテリア空間に好ましいとはいえず、近年、色温度3000Kの電球色のランプが用いられるようになりました。赤みの多い光色は、夕日や灯火のような印象を与え、柔らかでくつろげる光といえます。 |
3.4.2 照明の物理的要素の組み合わせで雰囲気を演出する |
照明環境を構成する物理的要素としては、照度とその分布の状態、輝度や輝き、陰影、光色、光源の位置と数などがあり、それらの組み合わせで空間が演出されます。 表は、その相関を示したもので、これを目安に求められる心理効果を照明設計として具現化することができます。 |
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3.5 照明計画と事例 |
事例(1)リビング…ダウンライト・スポットライト・スタンド等を併用して華やかさと暖かさを演出。
事例(2)和室…主照明の蛍光ペンダント・床の間のあかり・低位置のあんどんでくつろぎ感を演出。
事例(3)リビング…暗くなりがちな内奥部の高天井部に補助照明を設けて開放感を演出。
事例(4)間接照明だけのリビング…ブラケットとスポットライト2台で光が広がる演出。
食事のあかり…テーブル周りに光をまとめて、家族の集うひとときを盛り上げます。
パーティーのあかり…複数のあかりを灯して、華やかな雰囲気を創ります。
くつろぎのあかり…リビングのソファ周辺に白熱灯の光で暖かな雰囲気になります。
テレビのあかり…テレビ周辺だけにあかりを灯すと、映画館のような気分が楽しめます。 |
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4.1 メンテナンス(保守) |
照明器具は電球交換と汚れによって暗くなるのを防ぐ清掃が必要です。メンテナンス性については、
1.お手入れが簡単な器具を選ぶこと。
2.器具の取り付けは、できるだけ手が届きやすい位置にすること。
3.寿命が長いランプを使用することが理想です。 |
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4.2 省エネ |
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家庭内の電力消費のうち、照明は約16%を占めます。
省エネを図るためには、
1.点灯時間を短縮すること。
2.効率の良いランプを使用すること。
3.効率の良い照明器具を使用することに配慮しましょう。 |
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4.3 チェックリスト |
光・視環境部会での2年間の検討の要点を「光の要素別」と「空間別」の表にまとめました。
「光の要素別」では、“健康”にかかわる広範囲な要素について“配慮すべき要件”を一覧表にしました。また、「空間別」では、生活シーンからイメージされる光環境として要件をまとめました。
各空間で「考慮すべき項目を○印」「特に配慮すべき項目や見落としがちな項目を◎印」「“健康”に直接関係する項目を☆印」で示しました。
「空間別」一覧表には“自己評価欄”を設けましたので、一度、採点してみてはいかがでしょう。 |
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当研究結果報告は、「『健康な住まいのあかリ』−健康住宅の採光と照明−」の概要(抜粋)です。正規版は、日本健康住宅協会事務局にて販売いたしております。
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